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ヒツジの選択

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あるところに大きな羊の群れがありました。羊たちは食べるものがたくさんあり、安全な場所を探して移動しています。前列の羊たち以外はただ前の羊について行くだけで前の景色は全く見えません。しかし、中には群れから出て前の景色を見ようとする変わった羊たちもいました。アハヒツジです。

そして、ある日、道の先が崖であることを知ったアハヒツジたちは群れの羊たちに「この先は崖で危ないから、違う道に進まないとダメだよ」と忠告をします。

しかし、羊たちはこう返します。「そんなことを言ってるのはお前たち、アハヒツジだけだ。群れの前にいるエリート羊たちはこの道こそが最も安全、最善な道だと言っている。それに、ヨソの群れの羊たちもみんな同じ方へ向かって移動してるじゃないか。」

アハヒツジは続けます。「エリート羊たちを信じてはいけない。消えた子羊たちがどこに行ったか知ってるかい?あの子たちは群れからはぐれて迷子になったんじゃないんだ。エリート羊たちがこっそり子羊たちをオオカミのところに連れて行くのを見たという目撃羊がいるんだ。」

羊たちはバカバカしくて聞いてられないといった様子です。「なんでエリート羊たちがそんなことをするのさ?彼らは群れのリーダーなんだぞ。」

アハヒツジは必死に伝えます。「子羊を連れていくとオオカミから褒美をもらえるんだ。それに、自分たちだけは助けてもらえるという約束をしたからさ。」

羊たちは鼻で笑いました。「羊がオオカミと会話できるわけないだろう。それにエリート羊たちがそんなことをするはずがない。だって彼らは僕たちと同じ羊なんだぞ。それもただの羊じゃない。声が大きくて、走るのが早くて、立派な毛を生やしたエリートなんだ。その羊たちがそんなヒドイことをするはずがないじゃないか。お前たち、アハヒツジは群れのやっかいものだ。わざわざ遠回りになる道へ行こうだなんて頭がおかしいに違いない。」

アハヒツジたちはめげずに続けます。「本当はその道こそが近道で、食べるものがたくさんあって、安全なところへ行ける道なんだ。僕たちのひーひーひーひーひーひーひーおじいちゃんたちはそこで幸せに暮らしていたんだよ。」

羊たちは言います。「それは作り話だ!そんな話を本気で信じているなんて、やっぱりお前たち、アハヒツジは頭がおかしいに違いない!」

アハヒツジは悪口を言われても怒りませんでした。それどころか崖に向かって走っている群れの羊たちが哀れでなりません。

羊たちは続けます。「大体、もし本当にそんな楽園があるなら、そこから出てくる羊がいるはずないじゃないか。」

すると、アハヒツジは泣きそうな顔になりました。悪口を言われたからではありません。「そうだよ。本当なら楽園から出ようとする羊はいない。でも僕たちのひーひーひーおじいちゃんが楽園に来れない羊たちのために、この地まで伝えに来てくれたんだ。ひーひーひーおじいちゃんはこの地へ来ればエリート羊たちに殺されることがわかっていたのに、それでも羊たちを楽園に導くために来てくれたんだ。」

羊たちは納得がいきません。「だからなんでエリート羊たちが今も昔も同じ羊に対してそんなヒドイことをするんだ?」

アハヒツジは答えます。「羊の群れが楽園に行ってしまったらオオカミから褒美がもらえなくなるからさ。だからエリート羊たちは僕たちのひーひーひーおじいちゃんが悪い羊だとウソをついて殺してしまったんだ。」

何匹かの羊はアハヒツジの話を食い入るようにして聞くようになりました。「でも、ひーひーひーおじいちゃんが死んだ今となってはもう楽園への行き方はわからないじゃないか。」

アハヒツジは嬉しそうに答えます。「ひーひーひーおじいちゃんは死ぬ前に楽園への行き方をちゃんと教えてくれたじゃないか。みんな作り話だと思って信じてないだけだ。」

【羊は羊を愛しなさい。助け合いなさい。正しいと思う道を進みなさい。そうすれば神様の方から迎えに来てくださる。】

アハヒツジの話を聞いて何匹かの羊は目が覚めました。しかし、ほとんどの羊は変わりません。そればかりか、仲間をオオカミに売り渡すエリート羊のように、お互いを疑い合い、憎み合い、どんどん羊たちの愛は冷え切っていきました。そして、みんな揃って同じように崖から次々と落ちていったのです。崖に落ちる前にこっそりと逃げ、自分たちだけは大丈夫だとタカをくくっていたエリート羊たちはオオカミに裏切られて食べられてしまいました。崖から落ちた羊たちよりも苦しんで死んだのです。アハヒツジたちの小さな群れは愛を大事にし、正しい道を進みました。時には食べ物がなくて辛い日もありましたが、みんなで助け合い、ひーひーひーおじいちゃんの言葉を信じて、進み続けました。すると、ある日、突然、ひーひーひーおじいちゃんが言っていた通り、神様が天から迎えに来て、アハヒツジの群れを楽園に連れて行ってくれました。よく見ると神様はあのひーひーひーおじいちゃんではありませんか。なんと、ひーひーひーおじいちゃんは神様だったのです。楽園では美しい芝生が生え茂り、お腹がすくこともなく、オオカミもおらず、悪い羊も1匹もいません。楽園には悩みも苦しみも悲しみも怒りもありません。楽園は喜びと楽しみで満ち溢れたところでした。アハヒツジたちは今日も毎日、心が満たされ、穏やかに幸せに暮らしています。

もうアハヒツジたちのことをおかしいと言う羊はいないので、アハヒツジは普通の羊に戻りました。

羊たちはいつしか「メェ〜」ではなく「HAHA」と笑うようになったとさ。

おわり。

著者  ミッツ・パンダ
発行者 テディー・パンダ
発行所 パンダハウス
    パンダ王国バンブー島 7-7


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